2017年に始めたこのブログですが、少し前に記事が100本をこえました。更新のペースはゆっくりではあるものの、ここまで続いていることに自分でもびっくりしています。書くことによって初めて思いつくことがある、という発見が続いている理由かなと思います。…
山際淳司が生前に自薦した作品を中心に編まれた、スポーツ・ノンフィクションの傑作集。2段組800ページの大著で80篇を収録している。ここに書いたのは、ページ数にして冒頭の4分の1にあたる5篇について。ここまではすべて野球がテーマとなっている…
宮西建礼の短編集『銀河風帆走』(東京創元社)を読んだ。とりわけ印象的だった冒頭の短編「もしもぼくらが生まれていたら」について書いていたら長くなってしまった。 ※ネタバレしているので注意 高校生になった浅枝トオル、青原トモカ、磯本タクヤの3人は…
読書会のことが気になってきたら、まずは向井和美『読書会という幸福』(岩波新書)がいいと思う。翻訳者であり、中高一貫校の図書館司書でもある著者は、海外文学の古典を読む会に参加して29年になる(当時)。また学校の図書館では、学生たちとともに読書…
2024年上半期に読んだ本のなかから良かったものを10冊選びました。 好きになるまで ノンフィクション 佐々木秀彦『文化的コモンズ 文化施設がつくる交響圏』(みすず書房) 博物館、図書館、公民館、劇場・ホールを中心に、日本の文化施設の歴史をたどり、あ…
『響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、決意の最終楽章』を買ったのは、発売直後の2019年だった。ユーフォシリーズの完結編である。それからもう5年ほど経っているが、まだ未読のままだ。読めないまま何年も経ってしまった本は部屋にいくつもあるが…
鈴木忠平『いまだ成らず 羽生善治の譜』(文藝春秋)。2024年になって羽生善治九段の名前をタイトル入れた本が出る。それも話題のノンフィクション作家である鈴木忠平氏が書いたとくれば、期待は高まってくる。 羽生九段の半生記といった内容になるのだろう…
19世紀にはテレビも飛行機もコンピュータも宇宙船もなかったし、抗生物質もクレジットカードも電子レンジもCDも携帯電話もなかった。 ところが、インターネットだけはあった。 どういうこと?と、冒頭からつかまれるトム・スタンデージ『ヴィクトリア朝時代…
〈沢木耕太郎ノンフィクション〉シリーズのラストは、観戦記を7作収録。うち1作は長編となっている。F1、陸上、ボクシング、スキー、オリンピックと競技はさまざまだが、著者ならではの角度からストーリーが紡がれていて、競技に詳しくなくても読むことが…
編集者・津野海太郎の文章をあつめた『編集の提案』(編・宮田文久、黒鳥社)を読んだ。かなり前に書かれたものもふくめて、いまこそ読まれてほしいということで2022年に出た本。 「第1章 取材して、演出する」がとりわけ印象に残った。この章には「テープお…
〈沢木耕太郎ノンフィクション〉の第8巻は紀行/長編。いよいよあと残り2巻というところで「深夜特急」の登場。単行本では3冊、文庫版では6冊のこの作品が、二段組700ページほどの1冊にまとまっている。2年前に文庫で読んだばかりだが、このたび分厚い…
2023年の秋に『文学のエコロジー』というタイトルの本が2冊刊行された。 宮下志朗『文学のエコロジー』(放送大学叢書、左右社 2023.9) 山本貴光『文学のエコロジー』(講談社 2023.11) ネットで「文学のエコロジー」という文字列を見て、「文学」も「エ…
2023年も終わりが近づいてきたので、下半期に読んだ本のなかから良かったものを10冊選んでみました。ノンフィクション5冊、フィクション5冊です。*1 全体的に分厚いノンフィクションを読んでいる時間が長くて、小説はやや少なめでした。 ノンフィクショ…
今年もブログのサイドバーのところに書いていた文をまとめておきます。今年もいろいろありました。 " data-en-clipboard="true">ずっと気になっていた文学フリマにようやく行けた。文学フリマ京都、会場はみやこめっせ。昨日ホームページを見ながら、回りた…
〈沢木耕太郎ノンフィクション〉第Ⅶ巻は社会/長篇。1960年をテーマにした2作を収録している。どちらも傑作。 「危機の宰相」 「テロルの決算」 「危機の宰相」 初出:「文藝春秋」1977年7月号 1960年、岸のあとに首相になった池田勇人が「所得倍増」を掲げ…
ここのところずっと伊藤憲二『励起 仁科芳雄と日本の現代物理学』(みすず書房)を読んでいた。2段組1000ページで、内容も重厚なノンフィクション。しっかり集中できる時間にしぼって読み進めていたら、2か月ほど経っていた。せっかくなのでメモを残してお…
〈沢木耕太郎ノンフィクション〉6巻は、人物/長篇として4作が収められている。長篇としては「檀」と「無名」の2本立てで読みごたえがある。また「檀」にまつわる短めの文章が2つ付されている。長篇2作はまったく別の人物を描いているが、亡くなった人…
〈沢木耕太郎ノンフィクション〉の第Ⅴ巻はスポーツ/長篇と題して、「クレイになれなかった男」、「一瞬の夏」、「リア」の3作を収録。1本の長篇とその前後の短めのエピソードといった構成で、ひとりのボクサーと共に走り続けた濃密な記録になっている。年…
藤井聡太の快進撃がつづいている。今年に入って名人位も奪取し、8つあるタイトルのうち7つをもっている。残るひとつ王座への挑戦も決めて、史上初の八冠となるか注目されている。そんな無類の強さをみせる藤井七冠は、詰将棋好きとしても知られている。詰…
上半期に読んだ本から10冊選びました。ノンフィクションから5冊、フィクションから5冊です。今期は海外文学の読書量が少なめだったかも。今年に入ってから少しずつ読んでいる〈沢木耕太郎ノンフィクション〉シリーズを入れると大変なので、それは別枠と…
〈沢木耕太郎ノンフィクション〉シリーズの4巻目。紀行/短篇で10作を収録している。短篇といっても読み応えのあるものばかり。オン・ザ・ボーダーのタイトル通りで、日本の国境付近あるいは海外の紀行文が並んでいる。その時、その場所だからこそ書かれ…
「近ごろよく考えるんです。自分の父親がどうやって自分の夢に向き合っていたのか。でも、想像できないんです。ぼくにとって戦争は本当に遠くて、ぼんやりとしているから」(p.231) 呉明益の長編デビュー作『眠りの航路』(訳・倉本知明、白水社エクス・リブ…
〈沢木耕太郎ノンフィクション〉の第3巻は社会/短篇というテーマで11作を収録。これまでの2巻では、ある1人の人物に迫るものがほとんどだったが、この巻では社会、すなわち集団としての人物を描いている。各作品のタイトルもそれを反映しているが、全…
〈沢木耕太郎ノンフィクション〉の第Ⅱ巻。人物/短編というテーマで18作を収録している。前半の11作は「若き実力者たち」という連載から。当時24才の著者が、同世代の活躍している人を取材した。後半には個別に書かれた文章が並ぶ。前半と後半の間に1年の空…
藤井聡太竜王がタイトル6冠へ挑戦している。プロ入りが2016年10月で、プロデビュー直後の連勝からこの6年間、話題になり続けている。ちょうど藤井聡太がデビューしたころの将棋界について、藤井ブームとは別の視点で書いている2冊を読んだ。 まずは、松本…
文藝春秋80周年記念で編まれた沢木耕太郎の作品集がある、ということを知ったのは去年の秋だった。もう20年前の企画ではあるけれど、今年はこれを読んでいきたい。というのも、去年いくつかの本を読んで、文章の魅力にやられてしまい、これはどんなもの…
2022年も終わりということで、この半年に読んだ本のなかから良かったものを、フィクションから5冊、ノンフィクションから5冊選んでいます。 「知ればきっと元気が出る」 フィクション リチャード・パワーズ『惑う星』(訳・木原善彦、新潮社) リチャード…
今年に入ってからブログのサイドバーのところに、近況みたいなものをだらっと書いていました(ブラウザ版のみ読める)。Twitterは字数制限があるし、ブログはしっかり書かなきゃみたいな意識があって、そのあいだくらいの感じで。アーカイブしないって最初に…
リチャード・パワーズの新刊、『惑う星』(訳・木原善彦、新潮社)を読んだ。 冒頭の1段落目はこんな風。 でも、僕らがそれを見つけるのは無理かもしれないってこと?私たちはテラスに望遠鏡を設置していた。晴れた秋の夜、アメリカ合衆国東部に残された最…
ウォルター・アイザックソンの新刊がでたので早速読んだ。『コード・ブレーカー 生命科学革命と人類の未来 』(訳・西村美佐子、野中香方子、文藝春秋)、上下巻。 ノーベル化学賞をとったジェニファー・ダウドナを主人公に、ゲノム編集技術を中心とした生命…