〈沢木耕太郎ノンフィクション〉の第8巻は紀行/長編。いよいよあと残り2巻というところで「深夜特急」の登場。単行本では3冊、文庫版では6冊のこの作品が、二段組700ページほどの1冊にまとまっている。2年前に文庫で読んだばかりだが、このたび分厚い…
2023年の秋に『文学のエコロジー』というタイトルの本が2冊刊行された。 宮下志朗『文学のエコロジー』(放送大学叢書、左右社 2023.9) 山本貴光『文学のエコロジー』(講談社 2023.11) ネットで「文学のエコロジー」という文字列を見て、「文学」も「エ…
2023年も終わりが近づいてきたので、下半期に読んだ本のなかから良かったものを10冊選んでみました。ノンフィクション5冊、フィクション5冊です。*1 全体的に分厚いノンフィクションを読んでいる時間が長くて、小説はやや少なめでした。 ノンフィクショ…
今年もブログのサイドバーのところに書いていた文をまとめておきます。今年もいろいろありました。 " data-en-clipboard="true">ずっと気になっていた文学フリマにようやく行けた。文学フリマ京都、会場はみやこめっせ。昨日ホームページを見ながら、回りた…
〈沢木耕太郎ノンフィクション〉第Ⅶ巻は社会/長篇。1960年をテーマにした2作を収録している。どちらも傑作。 「危機の宰相」 「テロルの決算」 「危機の宰相」 初出:「文藝春秋」1977年7月号 1960年、岸のあとに首相になった池田勇人が「所得倍増」を掲げ…
ここのところずっと伊藤憲二『励起 仁科芳雄と日本の現代物理学』(みすず書房)を読んでいた。2段組1000ページで、内容も重厚なノンフィクション。しっかり集中できる時間にしぼって読み進めていたら、2か月ほど経っていた。せっかくなのでメモを残してお…
〈沢木耕太郎ノンフィクション〉6巻は、人物/長篇として4作が収められている。長篇としては「檀」と「無名」の2本立てで読みごたえがある。また「檀」にまつわる短めの文章が2つ付されている。長篇2作はまったく別の人物を描いているが、亡くなった人…
〈沢木耕太郎ノンフィクション〉の第Ⅴ巻はスポーツ/長篇と題して、「クレイになれなかった男」、「一瞬の夏」、「リア」の3作を収録。1本の長篇とその前後の短めのエピソードといった構成で、ひとりのボクサーと共に走り続けた濃密な記録になっている。年…
藤井聡太の快進撃がつづいている。今年に入って名人位も奪取し、8つあるタイトルのうち7つをもっている。残るひとつ王座への挑戦も決めて、史上初の八冠となるか注目されている。そんな無類の強さをみせる藤井七冠は、詰将棋好きとしても知られている。詰…
上半期に読んだ本から10冊選びました。ノンフィクションから5冊、フィクションから5冊です。今期は海外文学の読書量が少なめだったかも。今年に入ってから少しずつ読んでいる〈沢木耕太郎ノンフィクション〉シリーズを入れると大変なので、それは別枠と…
〈沢木耕太郎ノンフィクション〉シリーズの4巻目。紀行/短篇で10作を収録している。短篇といっても読み応えのあるものばかり。オン・ザ・ボーダーのタイトル通りで、日本の国境付近あるいは海外の紀行文が並んでいる。その時、その場所だからこそ書かれ…
「近ごろよく考えるんです。自分の父親がどうやって自分の夢に向き合っていたのか。でも、想像できないんです。ぼくにとって戦争は本当に遠くて、ぼんやりとしているから」(p.231) 呉明益の長編デビュー作『眠りの航路』(訳・倉本知明、白水社エクス・リブ…
〈沢木耕太郎ノンフィクション〉の第3巻は社会/短篇というテーマで11作を収録。これまでの2巻では、ある1人の人物に迫るものがほとんどだったが、この巻では社会、すなわち集団としての人物を描いている。各作品のタイトルもそれを反映しているが、全…
〈沢木耕太郎ノンフィクション〉の第Ⅱ巻。人物/短編というテーマで18作を収録している。前半の11作は「若き実力者たち」という連載から。当時24才の著者が、同世代の活躍している人を取材した。後半には個別に書かれた文章が並ぶ。前半と後半の間に1年の空…
藤井聡太竜王がタイトル6冠へ挑戦している。プロ入りが2016年10月で、プロデビュー直後の連勝からこの6年間、話題になり続けている。ちょうど藤井聡太がデビューしたころの将棋界について、藤井ブームとは別の視点で書いている2冊を読んだ。 まずは、松本…
文藝春秋80周年記念で編まれた沢木耕太郎の作品集がある、ということを知ったのは去年の秋だった。もう20年前の企画ではあるけれど、今年はこれを読んでいきたい。というのも、去年いくつかの本を読んで、文章の魅力にやられてしまい、これはどんなもの…
2022年も終わりということで、この半年に読んだ本のなかから良かったものを、フィクションから5冊、ノンフィクションから5冊選んでいます。 「知ればきっと元気が出る」 フィクション リチャード・パワーズ『惑う星』(訳・木原善彦、新潮社) リチャード…
今年に入ってからブログのサイドバーのところに、近況みたいなものをだらっと書いていました(ブラウザ版のみ読める)。Twitterは字数制限があるし、ブログはしっかり書かなきゃみたいな意識があって、そのあいだくらいの感じで。アーカイブしないって最初に…
リチャード・パワーズの新刊、『惑う星』(訳・木原善彦、新潮社)を読んだ。 冒頭の1段落目はこんな風。 でも、僕らがそれを見つけるのは無理かもしれないってこと?私たちはテラスに望遠鏡を設置していた。晴れた秋の夜、アメリカ合衆国東部に残された最…
ウォルター・アイザックソンの新刊がでたので早速読んだ。『コード・ブレーカー 生命科学革命と人類の未来 』(訳・西村美佐子、野中香方子、文藝春秋)、上下巻。 ノーベル化学賞をとったジェニファー・ダウドナを主人公に、ゲノム編集技術を中心とした生命…
「好奇心が大事になってきますね」みたいな話のシメってたまにあるけど、じっさいのところ、好奇心がどういうものなのかよくわからない。いい意味でもわるい意味でも使われるし、育むことができるのかも気になる。 イアン・レズリー『子どもは40000回質問す…
スティーブ・ジョブズの公式の評伝で知られる、作家ウォルター・アイザックソン。ジョブズの次の本では、コンピュータとネットワークの開発史をテーマとしている。『イノベーターズ 天才、ハッカー、ギークがおりなすデジタル革命史』(訳・井口資仁、講談社…
唐突に小説のオールタイムベストを書き残したくなった。いつか見返したときに楽しそうなので。さっそく考え始めたが、しばりがないとどうにも決まらないので、作家1人につき1冊にする。順不同。 リチャード・パワーズ『舞踏会へ向かう三人の農夫』(訳・柴…
いつのまにかWordleが日課になっていた。ふだんスマホゲームをしないのに、めずらしく長く続いていて、もう200日以上になる。この程よく続けられる感じはなんだろうと思いをめぐらすうちに、習慣についていろいろ考えたので書いてみる。 Wordleのプレイ画面 …
里見香奈女流が棋士編入試験への挑戦を決めた。プロとの対局で好成績をおさめて規定を満たし、この8月から新四段5名との試験対局がはじまる。5局中3勝することができれば、女性初のプロ棋士の誕生ということで注目が集まっている。将棋界でプロになるに…
2022年の上半期に読んだ本から10冊選んでみます。フィクションから5冊、ノンフィクションから5冊。読み終えた本は70冊ほどでいつも通りですが、面白そうな本が次々とあらわれるので、買うペースだけが早まっています。 真ん中の本が分厚いなー フィク…
今年のゴールデンウィークはどこかへでかけることもなく、1冊の本をじっくりと読んでいた。リチャード・パワーズ『黄金虫変奏曲』(訳/森慎一郎、若島正 みすず書房)。待ちに待った日本語訳の刊行。850ページ二段組のボリュームにどっぷりとつかる、稀有…
社会学者のエリック・クリネンバーグ『集まる場所が必要だ――孤立を防ぎ、暮らしを守る「開かれた場」の社会学』(訳・藤原朝子、英治出版)を読んだ。コロナ以降、一か所に集まらないで働いたり、人と話したりということが増えた。集まることの意味はどれだ…
マイケル・ポーラン『欲望の植物誌――人をあやつる4つの植物』(訳・西田佐知子、八坂書房)の副題が気になって読み始める。植物が「人をあやつる」ってどういうことだろう?人が植物を育てているのであって、それは逆だろうという直感にひっかかる。 この本…
順位戦が佳境を迎えている。藤井竜王はあと1勝でA級に昇級となる。順調に勝ち上がれば、最年少名人の可能性も残していて目が離せない。最終局を前に、A級を29期守った羽生善治九段の降級が決まった。去年もあやうくというところだったので、いつかそう…