その本を読まないことで

『響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、決意の最終楽章』を買ったのは、発売直後の2019年だった。ユーフォシリーズの完結編である。それからもう5年ほど経っているが、まだ未読のままだ。

読めないまま何年も経ってしまった本は部屋にいくつもあるが、この本については少し事情が違う。

「そのとき」が来るまでは読まない。

買うときにそう決めていたからだ。

ユーフォシリーズとの出会いは、京都アニメーション制作でテレビ放映されたアニメだった。再放送のタイミングで、たまたま目にとまった2期2話のある場面。

 

電車の吊り革につかまった高校生2人が話をしていて、休みの日にプールに行かないかと誘う。設定も経緯もわからないまま何気なく見たそのシーンに、ただならぬ切実さを感じた。

 
ちゃんと見なくてはと思い、DVDをレンタルして最初から見ていった。主人公像、人間関係、シリーズ構成、アニメーションとしての演出、音楽。どれも新鮮で驚きがあった。見るたびに発見があり、おもしろさが深まっていった。
 
何気なく見たシーンがきっかけだったが、全編を繰り返し見ていくなかで、優れたアニメーションには、何気ないシーンなどというものはひとつとして存在しないことを知った。
 
 
それから原作を読み始めた。アニメとは違って、会話が方言でびっくりした。でも舞台は京都だから当たり前かとか、あの大吉山の演奏はアニメのオリジナルなのかとか、アニメでは描かれていなかったところでそんなことがとか。アニメが進んだらその分原作も読み進めた。どうも自分には、この順番で楽しむのが合うらしい。
 
アニメ2期で主人公の高校1年が終わった。2018年、2019年には新しく劇場版が公開された。主人公は2年生になった。映画を見て、原作を読んだ。そして、3年生編のアニメの制作決定も発表され、その原作にあたる『決意の最終楽章』の発売もその時期だった。
 
これもアニメを見たら読もうと思い、買ってきて本棚に並べた。もちろん読みたいけど、一番楽しめるようにしておこう。そんなに待つわけでもないだろうと、そのときは思っていた。
 
あの夏の日までは。
 
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「そのうち」は「もしかしたらいつか」になってしまった。ただ待つことしかできなかった。
 
いっそもう読み始めてしまおうか。続きは気になる。それに、たとえ先に原作を読んだとしても、アニメを楽しめないということにはならないはずだ……
 
しかし、どうしてもできなかった。いつのまにか自分のなかで、原作を読まないこととアニメ化を願うことが切り離せないものになっていた。現実的には、それらのあいだにはなんの関係もありはしない。読んだからといって、あるいは読まなかったからといってどうなるわけでもない。
 
それでもその本を読まないことで、アニメ化への希望をつなぎとめようとしていた。そんな意味不明な気持ちがあった。
 
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2023年、『アンサンブルコンテスト』が劇場公開。そして2024年春、主人公の高校最後の年を描くアニメ3期『響け!ユーフォニアム3』がスタートした。素晴らしい出来で、毎週日曜日の特別な時間だった。12話まで放送が終わり、明日最終回を迎える。いよいよ読み始めるときがきた。