2024-01-01から1年間の記事一覧

自選記事10(2024秋)

2017年に始めたこのブログですが、少し前に記事が100本をこえました。更新のペースはゆっくりではあるものの、ここまで続いていることに自分でもびっくりしています。書くことによって初めて思いつくことがある、という発見が続いている理由かなと思います。…

山際淳司『スポーツ・ノンフィクション傑作集成』①

山際淳司が生前に自薦した作品を中心に編まれた、スポーツ・ノンフィクションの傑作集。2段組800ページの大著で80篇を収録している。ここに書いたのは、ページ数にして冒頭の4分の1にあたる5篇について。ここまではすべて野球がテーマとなっている…

宮西建礼「もしもぼくらが生まれていたら」

宮西建礼の短編集『銀河風帆走』(東京創元社)を読んだ。とりわけ印象的だった冒頭の短編「もしもぼくらが生まれていたら」について書いていたら長くなってしまった。 ※ネタバレしているので注意 高校生になった浅枝トオル、青原トモカ、磯本タクヤの3人は…

「読書会」を読む5冊

読書会のことが気になってきたら、まずは向井和美『読書会という幸福』(岩波新書)がいいと思う。翻訳者であり、中高一貫校の図書館司書でもある著者は、海外文学の古典を読む会に参加して29年になる(当時)。また学校の図書館では、学生たちとともに読書…

2024年上半期に読んだ本ベスト10

2024年上半期に読んだ本のなかから良かったものを10冊選びました。 好きになるまで ノンフィクション 佐々木秀彦『文化的コモンズ 文化施設がつくる交響圏』(みすず書房) 博物館、図書館、公民館、劇場・ホールを中心に、日本の文化施設の歴史をたどり、あ…

その本を読まないことで

『響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、決意の最終楽章』を買ったのは、発売直後の2019年だった。ユーフォシリーズの完結編である。それからもう5年ほど経っているが、まだ未読のままだ。読めないまま何年も経ってしまった本は部屋にいくつもあるが…

将棋ノンフィクションを読む09――鈴木忠平『いまだ成らず 羽生善治の譜』

鈴木忠平『いまだ成らず 羽生善治の譜』(文藝春秋)。2024年になって羽生善治九段の名前をタイトル入れた本が出る。それも話題のノンフィクション作家である鈴木忠平氏が書いたとくれば、期待は高まってくる。 羽生九段の半生記といった内容になるのだろう…

トム・スタンデージ『ヴィクトリア朝時代のインターネット』

19世紀にはテレビも飛行機もコンピュータも宇宙船もなかったし、抗生物質もクレジットカードも電子レンジもCDも携帯電話もなかった。 ところが、インターネットだけはあった。 どういうこと?と、冒頭からつかまれるトム・スタンデージ『ヴィクトリア朝時代…

沢木耕太郎ノンフィクションⅨ『酒杯を乾して』

〈沢木耕太郎ノンフィクション〉シリーズのラストは、観戦記を7作収録。うち1作は長編となっている。F1、陸上、ボクシング、スキー、オリンピックと競技はさまざまだが、著者ならではの角度からストーリーが紡がれていて、競技に詳しくなくても読むことが…

話しことばと書きことばのあいだに~『編集の提案』、『「まちライブラリー」の研究』

編集者・津野海太郎の文章をあつめた『編集の提案』(編・宮田文久、黒鳥社)を読んだ。かなり前に書かれたものもふくめて、いまこそ読まれてほしいということで2022年に出た本。 「第1章 取材して、演出する」がとりわけ印象に残った。この章には「テープお…

沢木耕太郎ノンフィクションⅧ『ミッドナイト・エクスプレス』

〈沢木耕太郎ノンフィクション〉の第8巻は紀行/長編。いよいよあと残り2巻というところで「深夜特急」の登場。単行本では3冊、文庫版では6冊のこの作品が、二段組700ページほどの1冊にまとまっている。2年前に文庫で読んだばかりだが、このたび分厚い…

二つの『文学のエコロジー』

2023年の秋に『文学のエコロジー』というタイトルの本が2冊刊行された。 宮下志朗『文学のエコロジー』(放送大学叢書、左右社 2023.9) 山本貴光『文学のエコロジー』(講談社 2023.11) ネットで「文学のエコロジー」という文字列を見て、「文学」も「エ…