2020-01-01から1年間の記事一覧

2020年下半期に読んだ本ベスト10

半年ごとに書いている恒例のベスト10。今回はノンフィクションが多めになりました。 ノンフィクション 東浩紀『ゲンロン戦記』(中公新書ラクレ) 「知の観客をつくる」というミッションで、株式会社ゲンロンを経営した10年の記録。それは戦記と呼ぶにふさ…

アセモグル&ロビンソン『自由の命運――国家、社会、そして狭い回廊』

前作『国家はなぜ衰退するのか』に続いて、たいへんな力作。前作では国家のもつ制度を包括的/収奪的という区分けで整理し、国家の繁栄とのかかわりを論じた。本書はその枠組みを発展させながら、人々の自由というテーマを扱っている。 本書の主張をシンプル…

『記憶のデザイン』、『独学大全』

近所の本屋に閉店のお知らせが貼ってあった。いまの部屋に引っ越してきてからの数年間、よく足を運んで本を買った店だ。特に目的もなく本棚を眺めるのも好きで、お決まりのコースができていた。 まず入ったら右に歩いて、雑誌コーナーへ向かう。なにかしら気…

将棋ノンフィクションを読む02――『受け師の道 百折不撓の棋士・木村一基』、『天才 藤井聡太』

今年の7月、藤井聡太七段は早くも2回目のタイトル挑戦をしていた。相手は、前年に最年長で初タイトルを獲得した木村王位。最年少と最年長、対照的な組み合わせになった。樋口薫『受け師の道 百折不撓の棋士・木村一基』は、木村の修業時代からタイトル獲得…

『統計の歴史』、『急に具合が悪くなる』

今年ほど、統計を意識させられる年もない。感染者数、陽性率、重症率、再生産数などの数字が毎日更新される。都道府県ごとのマップが作られて、時系列のグラフが作られる。初期に起こった、検査数と偽陽性をめぐる議論も、直観ではとらえにくい統計の話だっ…

「その2人の関係」としか、言いようがない

角田光代『キッドナップ・ツアー』という夏休み小説がある。夏休みの初日、小学生のハルは外を歩いているとき、父親に「ユウカイ」される。それから二人はさまざまなところへ行く。買い物をして、海へ行って、宿で泊まる。ある日は公園でキャンプをする。ま…

2020年上半期に読んだ本ベスト10

ノンフィクション 東畑開人『居るのはつらいよ』(医学書院) 臨床心理学の博士課程をでた著者は、沖縄のデイケア施設で仕事につく。待っていた業務は思っていたものとは違っていた。それはセラピーとケアという言葉で整理させる。学んできたのはセラピーだ…

『都市は人類最高の発明である』、『アナログの逆襲』

最近は自宅で過ごす時間が多い。わりと普段からインドアではあるが、よく行っていた本屋が閉まっていたりすると途端に不自由になった気がする。いつも本屋に助けられているなぁと思う。こういうときは本棚をながめて、気になった本の再読をはじめる。自然と…

将棋ノンフィクションを読む――『純粋なるもの』、『透明の棋士』

将棋を見るのが好きなので、自然と関連する本に手がのびる。読書が趣味だと、別の趣味とすぐリンクするのがいい。というわけで、将棋のノンフィクションを立て続けに2冊読んだ。とても良い体験だったのでそのことを書いてみる。本を読んでいると、棋士たち…

『数量化革命』、『測りすぎ』

言葉じゃなくて数字で示せ、とか、定量的な説明を、とか言われがちな昨今。数値にするとたしかにわかりやすい。ドラゴンボールのスカウターしかり、 PSYCHO-PASSしかり。将棋のネット中継が好きでよく見るのだけど、ソフトの評価値が画面にでていると初心者…

『情動はこうしてつくられる』、『幸福の遺伝子』

リサ・フェルドマン・バレット『情動はこうしてつくられる』(訳/高橋洋 紀伊國屋書店)を読んだ。この本は、人の情動はどのようにして生まれるのかという問題を最新の科学をもとに解説する。一般に情動は受動的にもたらされると考えられているが、著者は異…

オイディプス王をめぐって~『不道徳的倫理学講義』、『論理の蜘蛛の巣の中で』

本を読んでいて印象的な引用があると、ほかの本での言及が思い出されて本棚を見渡すことがよくある。聖書やギリシャ神話は頻出するので、読んだらもっといろいろ楽しめるのだろうなぁと思いつつ手が伸びない。あまりにも言及されるので、ぼんやりとはわかる…