自選記事10(2024秋)
山際淳司『スポーツ・ノンフィクション傑作集成』①
山際淳司が生前に自薦した作品を中心に編まれた、スポーツ・ノンフィクションの傑作集。2段組800ページの大著で80篇を収録している。ここに書いたのは、ページ数にして冒頭の4分の1にあたる5篇について。ここまではすべて野球がテーマとなっている。
山際淳司の文章を読むのは初めてだったが、シャープな文体が好みにあう。そして内容も傑作集成の名にふさわしいものばかり。
「ルーキー」
1986年、清原和博は西武ライオンズに入り、プロ野球選手としてのキャリアをスタートする。甲子園で本塁打記録を打ち立てたそのルーキーの活躍は目覚ましく、いきなりプロ野球史にも名を残すことになる。その年、清原の話題が世間をにぎわせるなか、高校時代の清原と戦った者たちを取材していく。
甲子園でPL学園相手に投げたピッチャーたちがメインの取材対象となる。清原を抑えた伊野商の渡辺、打たれた高知商の中山、打たれることができなかった宇部商の田上。それぞれのしかたで清原を意識せずにはいられない。清原との対戦の記憶とその後の進路を知ることになる。
とりわけ印象的だったのは、清原と同学年でPL学園のキャプテンをしていた松山の話だ。桑田、清原とともに1年の夏から5期連続で甲子園に出場した、最強の時代を経験している。当然ながらPL内の競争は激しく、ほかのチームであればエースか四番かという選手がごろごろいる。中学ではエースで四番だった松山は、早々に野手転向を告げられる。
続きを読むかつて彼らは皆、ナンバーワンだった。自分を中心にゲームは展開していた。それがとんでもない間違いだったことを、思い知らされる。とてもじゃないが、かなわないと。彼らはつぶやかざるをえない。おれは所詮、ダイヤモンドではなかった、と。
宮西建礼「もしもぼくらが生まれていたら」
宮西建礼の短編集『銀河風帆走』(東京創元社)を読んだ。とりわけ印象的だった冒頭の短編「もしもぼくらが生まれていたら」について書いていたら長くなってしまった。
※ネタバレしているので注意
高校生になった浅枝トオル、青原トモカ、磯本タクヤの3人は「衛星構想コンテスト」のアイデアを考えていた。このコンテストはオリジナルの人工衛星や宇宙機ミッションを考案し、その完成度を競い合うというもの。3人ともそれぞれにアイデアをもっているが、グループとして意見をまとめるのに苦心している。
トオルとタクヤは土星以遠の宇宙探査機について検討を重ねる。その一方、トモカは小惑星を動かすための宇宙機の構想を考えていた。というのも、数週間前に発見された小惑星が、その軌道予測から地球に落下する可能性があると報じられたからだ。
観測データとシミュレーションの結果は、地球に衝突する確率が日に日に高まっていることを示しており、具体的な落下場所も絞られてくる。日本はかなり危険な地域と予測され、各国・各機関が対応を検討し始める。そうした状況のもと、トオルの一人称視点で物語は進む。
「読書会」を読む5冊
読書会のことが気になってきたら、まずは向井和美『読書会という幸福』(岩波新書)がいいと思う。翻訳者であり、中高一貫校の図書館司書でもある著者は、海外文学の古典を読む会に参加して29年になる(当時)。また学校の図書館では、学生たちとともに読書会を運営している。
読書会とはどのようなものか、という入門的な話からはじまり、経験に裏打ちされた楽しむためのヒントがつまっている。毎月参加している"ホーム"の読書会のことはもちろん、他の会に参加してみたという「潜入ルポ」もあって、読書会のさまざまなスタイルを知ることできる。
読書会の効用として、自分ひとりでは読み通せない本を読める、日常生活と違う話ができる、感想や意見が言えるようになる、人の意見が聞ける、といったことがあげられている。そうした場をうまくつくるための作法も書いてある。これから参加してみたいという人も、すでに主催している人も、何かしら得られるものがあるはずだ。
本の後半では、読書会参加者の反応や感想を交えながら海外文学を紹介していて、読みたい本が増える。巻末に付された、35年にわたる読書会の課題本リストは圧巻。
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