2022年下半期に読んだ本ベスト10

2022年も終わりということで、この半年に読んだ本のなかから良かったものを、フィクションから5冊、ノンフィクションから5冊選んでいます。

 

「知ればきっと元気が出る」

 

フィクション

リチャード・パワーズ『惑う星』(訳・木原善彦、新潮社)

惑う星

リチャード・パワーズの新刊。今年は2冊も翻訳がでて、楽しみにしながら過ごしていた。最新作を読んだうえで、初期の作品も再読したくなっている。感想は下の記事に。

 

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小川哲『君のクイズ』(朝日新聞出版)

君のクイズ

クイズの世界を舞台にした小説。クイズ番組の決勝、相手は早押しの問題が一文字も読まれていない状態でボタンを押し正解した。なぜそんなことができたのか。やらせを疑う声が多いなか、それ以外の可能性を追いかける。出題されたクイズを順番にたどると、その知識と出会ったときのことが思い出される。その一場面があったからこそクイズに正解することができる。クイズはそのかけがえのない一場面を肯定してくれる。明らかになる真相の魅力もさることながら、人生とクイズを重ねる主人公のクイズ観がとても良かった。

 

井上彼方・編『SFアンソロジー 新月/朧木果樹園の軌跡』(Kaguya Books)

SFアンソロジー 新月/朧木果樹園の軌跡 (Kaguya Books)

クラウドファンディングで届いたSF短編のアンソロジー。25名の作家が参加しており、はじめて読む方が多い。サンゴのゲノム研究者のクロニクルを描く一階堂洋「偉業」がとくに好き。リチャード・パワーズに似たものを感じる。それと、苦草堅一「握り八光年」。寿司屋の弟子は、大将の技を盗もうと手元を観察するが、速すぎて見えない。あるとき、大将の握りが時空を超えていることに気づく。意味が分からなくて、めっちゃ笑った。

 

柞刈湯葉『まず牛を球とします。』(河出書房新社

まず牛を球とします。

発想と理屈が楽しい、柞刈湯葉の第二短編集。これもSF。コロナ禍でダンボール箱をかぶって外へでたら、インターネットミームになってしまう「令和二年の箱男」がベスト。「数を食べる」、「ルナティック・オン・ザ・ヒル」、「ボーナス・トラック・クロモソーム」あたりも良い。

 

米澤穂信『栞と嘘の季節』(集英社

栞と嘘の季節 (集英社文芸単行本)

図書委員シリーズ2作目。高校の図書室でトリカブトの栞が見つかるところからはじまるミステリー。だれもが言いたくないことを抱えている。なにげない動作や会話を糸口に、推理をつないでいくことで嘘を見抜き、事件の全貌が明らかになっていく。細かい推理とメイン2人のキャラもあって、ノンストップで読んでしまった。前作を読まなくても楽しめるが、読んでいるとぐっとくるところがある。最低限のやりとりで、松倉の決意をみせるのが素晴らしい。

 

 

 

ノンフィクション

ウォルター・アイザックソン『コード・ブレーカー』(訳・西村美佐子、野中香方子 文藝春秋

コード・ブレーカー 上 生命科学革命と人類の未来 (文春e-book)コード・ブレーカー 下 生命科学革命と人類の未来 (文春e-book)

ノーベル賞を受賞したジェニファー・ダウドナを中心に、ゲノム編集技術の進展を追ったノンフィクション。感想は下の記事に。

 

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向井和美『読書会という幸福』(岩波新書

読書会という幸福 (岩波新書)

「わたしがこれまで人を殺さずにいられたのは、本があったから、そして読書会があったからだと言ってもよいかもしれない」、という帯文をみて手に取る。翻訳家で図書館司書でもある著者が、読書会の体験をつづる。翻訳の先生であった東江一紀氏のもとで、海外文学の読書会に参加する。前半は読書会の入門的な話。どんな形式や作法があるか。読書会潜入レポや主催したときの記録も。後半には、読書会でとりあげた海外文学の紹介がある。参加者の反応や感想を交えながらの紹介があり、読みたい本がどんどん増える。巻末には、35年分の課題本リストがあってすごい。

 

モンティ・ライマン『皮膚、人間のすべてを語る』(訳・塩﨑香織、みすず書房

皮膚、人間のすべてを語る――万能の臓器と巡る10章

皮膚はたくさんの機能をもつ最大の臓器である。こう位置づけて、医学から文化、社会的な話まで、皮膚の役割を幅広く知ることができる。体温の調整、代謝、水分の保持、物理的防御、傷の修復などなど。いろんな病状が見えたりするセンサーでありスクリーンとなる。触覚、文化的な偏見もある。皮膚で何が起きているのか、他者の皮膚を見て人は何を考えてしまうのか。読むほどに皮膚の重要性がわかってくる。

 

吉川浩満『哲学の門前』(紀伊國屋書店

哲学の門前

随筆集。哲学入門のさらに手前で、というコンセプト。書かれているのは生活の話で、ときおり哲学が顔をのぞかせる。いわく「ふだんの生活の場こそ哲学的問題の最大産地」。友達のこと、家族のこと、仕事のこと。失敗談を読んで、自分も後悔したことを思い出す(とても書けない)。ときに笑い、大いに考えさせられる。知的作業には友と遊びが必要というところが響く。

 

最相葉月星新一 一〇〇一話をつくった人』(新潮文庫

星新一〈上〉―一〇〇一話をつくった人 (新潮文庫)星新一〈下〉―一〇〇一話をつくった人 (新潮文庫)

SFショートショートで有名な星新一の評伝。小学生のころにたくさん読んでいた。最近になって、作者への関心がでてきて手にとる。大企業の御曹司として生まれ、終戦の年に帝大農学部に入学。父親の死後、星製薬の社長にもなった人物がなぜSFを志したのか。江戸川乱歩を筆頭にミステリーが読者を増やすなかで、SFは「探偵小説雑誌の庇を借りてスタートした」。日本SF黎明期の記録としても読むことができる。クラブの結成、雑誌の立ち上げなど文化をつくる組織論としても興味深い。

 

 

 

 

上半期ベストはこちら

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