2017年の下半期を振り返って、良かった本を選んでみました。フィクションから5冊、ノンフィクションから5冊ということで。
フィクション
小川哲『ゲームの王国』
今年、一番好奇心を掻き立てられた小説。カンボジア圧政下で、少年と少女は世界を変えるために壮大な物語が動き出す。一方は脳波の研究、もう一方は政治家へ。世界のルールはどのように設定されるのかを問う。ジャンルを横断した知見が投入されている。kinob5.hatenablog.com
なんのレビューも見ずに、読んでほしい本格ミステリ。ある設定によって、クローズドサークルと不可能状況が絶妙につくられる。解決も見事で一気読みした。ミステリ三冠も納得。 香港の歴史と一人の刑事をめぐる連作短編形式のミステリ。一編一編の密度が高い。冒頭の「黒と白の間の真実」がベスト。中国語で書かれたミステリ(華文ミステリというらしい)はこれまでノーマークだったので、そういう意味でもうれしい発見でした。 オールタイムベストで常連のファーストコンタクトSF。人間とは別のかたちの知性と意思疎通することは果たして可能なのか。その困難さに徹底的に向き合っている。1961年発表だが、全然古びてない。 江神シリーズの短編集。ロジックとミステリ談義が楽しい。長編の隙間がうまっていく感じも。「除夜を歩く」がベスト。 能動でも受動でもない感覚ってなんだろうという問いから出発し、言語の歴史をさかのぼることで、能動と受動という二分法に当てはまらない世界観を提示している。二項対立自体を疑うという思考の見本。 2017年のノーベル経済学賞でも話題となった行動経済学。その黎明期を担った二人の学者の物語を『マネー・ボール』のマイケル・ルイスが描く。 すごい人が集まればすごい作品ができるわけではない。トップクリエイターが集うピクサーにおける、創造性のための環境づくりを具体的に示している。机の置き方から会議の進め方まで細心の注意が払われている。行動経済学ともつながるかも。 哲学史の外観というより、唯物論入門に近い。物以外を物だけの世界にどう書き込むか。工学寄りな自分には、かなりしっくりきた。くだけた文体と切れのある論理で進むスタイルもいい。 映画『イミテーション・ゲーム』の原作となったアラン・チューリングの伝記。コンピュータの起点となる人物の生涯が描かれる。エニグマ暗号の解読が注目されがちだが、それも数あるエピソードのひとつ。幼少期の聡明さ、計算機の理論から機械の配線まで全部自分でやっていく横断ぶりに驚く。 2017年の上半期はこちら。 今村昌弘『屍人荘の殺人』
陳浩基『13・67』
スタニスワフ・レム『ソラリス』
有栖川有栖『江神二郎の洞察』
ノンフィクション
國分功一郎『中動態の世界——意志と責任の考古学』
マイケル・ルイス『かくて行動経済学生まれり』
エイミー・ワラスエド・キャットムル『ピクサー流 創造するちから』
戸田山和久『哲学入門』
アンドルー・ホッジス『エニグマ アラン・チューリング伝』