2018年下半期に読んだ本ベスト10

ノンフィクション5冊、フィクション5冊で選びました。

ノンフィクション

アンドリュー”バニー”ファン『ハードウェア・ハッカー 新しいモノをつくる破壊と創造の冒険』(訳/高須正和 監訳/山形浩生 技術評論社

ハードウェアハッカー ~新しいモノをつくる破壊と創造の冒険

電子デバイスを使う機会はどんどん増えているが、その中身を知ろうとする人は少ない。説明書の通りに使えばそれで済むからだ。”ハードウェア・ハッカー”はそのブラックボックスを解読し、改造したり、別の使い方で遊んだりする。このハッカー的な視点がまずおもしろいのだが、著者はそこにとどまらず、ハードウェアの量産立ち上げもしている。製品設計、中国の工場との交渉、不良品との格闘などなど、刺激的なエピソードだらけ。ものづくりに興味がある人全員に薦めたい。

gihyo.jp

 

ユヴァル・ノア・ハラリ『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』(訳/柴田裕之 河出書房新社

ホモ・デウス 上: テクノロジーとサピエンスの未来  ホモ・デウス 下: テクノロジーとサピエンスの未来

 前著『サピエンス全史』は、宗教や貨幣や国家といった虚構を軸に人類の歴史を俯瞰した。本書のテーマはその先の未来。歴史研究を土台にして、現代のテクノロジー(特に生命科学アルゴリズム)を考察し、「人類は不死・幸福・神性を獲得しようとする」というストーリーを語る。こういう大胆で壮大な仮説を提示してみせたことで、今後さまざまな形で参照されながら議論が深まる予感。『銃・病原菌・鉄』みたいに。 

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吉川浩満『人間の解剖はサルの解剖のための鍵である』(河出書房新社

人間の解剖はサルの解剖のための鍵である

生命科学やAIといった、進化と認知にかかわる諸科学や技術の発展が目覚ましい。このような科学技術は、現在進行形で人間観の変容をもたらす。単純化していうと、これまで人間は「合理的な動物」だと考えられてきたが、そうではなく「不合理なロボット」ではないか、と。その内実は本書で丁寧に整理されている。この本を起点に、関連本に手を伸ばしたくなること間違いなし。『ホモ・デウス』との関連も深い。

伊藤亜紗『どもる体』(医学書院)

どもる体 (シリーズ ケアをひらく)

どもりに注目し、しゃべることの身体運動としての側面にせまる。おもしろかったのは、吃音の人でも歌うときにはどもらないという発見から、リズムと身体の関係に進んでいくところ。そこには、「ノる」と「乗っ取られる」のせめぎあい、身体のままならなさがある。普段、無意識にやっていることの不思議に気づく読書体験。

個人的に、今年一番読んでもらいたいエントリー。

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瀧澤弘和『現代経済学 ゲーム理論行動経済学・制度論』(中公新書

現代経済学-ゲーム理論・行動経済学・制度論 (中公新書)

ゲーム理論行動経済学をおもしろいと思いつつも、経済学との関連や全体像はよくわかってない自分がまさにターゲットという感じでありがたい。経済学の歴史をたどると、対象領域はどんどん広がっていて、他の学問とも交差している。エピジェネティクスへの言及まであって驚いた。中心にあるのは、「人の意思決定はどのように行われるか」という問いだと思う。これまた読みたい本が増える一冊。 

 

フィクション

アンソニーホロヴィッツカササギ殺人事件』(訳/山田蘭, 創元推理文庫

カササギ殺人事件〈上〉 (創元推理文庫)  カササギ殺人事件〈下〉 (創元推理文庫)

海外ミステリで今年一番話題になっていた本作。評判通りおもしろい。主人公は編集者。ミステリ作家の原稿を読み始める。王道の設定に不可解な謎、そして名探偵。引き込まれ、読み進めていくが・・・。作中作との二重構造、並行して解決に向かっていく構成が見事。  

 

ジョン・ウィリアムズ『ブッチャーズ・クロッシング』(訳/布施由紀子 作品社)

ブッチャーズ・クロッシング

大傑作『ストーナー』の前に書かれた作品。アメリカ西部ブッチャーズ・クロッシングにやってきたある若者は、バッファロー狩りへと旅立つ。自然のなかで生死を賭けた過酷な日々がはじまり...と書いてみたけれど、ストーリーの要約では本書の魅力は半分も伝わらない気がする。こまやかな描写の積み重ねが素晴らしく、直接は書かれない心情が、読み手の内側に湧き上がってくる。1960年発表だが、まったく古びていない。

 

武田綾乃『その日、朱音は空を飛んだ』(幻冬舎

その日、朱音は空を飛んだ

アニメ『響け!ユーフォニアム 』にやられてからというもの、原作者も追いかけてる。最新作はスクールミステリ。ある日の放課後、川崎朱音は高校の屋上から落下し、死亡した。その真相は?事件前後の群像劇。野次馬、無関心、激しい動揺、さまざまな感情が入り混じり、なかなかつらい...でもやめられない。『密閉教室 』とか、『桐島、部活やめるってよ 』のような感覚。人物相関図を書きながらがいいかも。

 

本谷有希子『静かに、ねえ、静かに』(講談社

静かに、ねぇ、静かに

芥川賞作家の最新短編集。SNSWebサービスをテーマにしている。全体的に意地悪すぎて最高。なかでも、冒頭におかれた「本当の旅」がやばい。LINEとインスタを多用してる中年3人のマレーシア旅行。SNS特有の謎のポジティブマインドと同調性をうまくとらえていて、笑える。しかし、だんだん笑えない状況へ...

 

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名倉編『異セカイ系』(講談社タイガ

異セカイ系 (講談社タイガ)

異世界転生×セカイ系。書いた小説の中に移動できる能力が、小説投稿サイトのランキング上位者に与えられる。しかし下位に落ちれば、その能力は消えてしまう。それはつまり好きなキャラクターとの別れを意味する。異世界での物語を楽しむ裏で、ランキングを死守すべく頭脳戦が展開される。物語を書く倫理とは、キャラクターへの愛とは。推進力のある文がとてもいい。

 

 

番外編:漫画

吉田秋生海街diary 1~9』(フラワーコミックス)

海街diary 1 蝉時雨のやむ頃

たまには漫画の話も。是枝監督の映画も話題になった『海街diary』。原作は、先日発売された9巻で完結した。最後の最後まで素晴らしかった。何回でも読み返したい。オールタイムベスト級。

 

さいごに

振り返ってみると、去年までと違って、けっこう新刊を読んだ気がします。積読が順調に増えていますが、来年もこの調子でいきたいところです。おすすめも募集しています。

 

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