透明マントを求めて 天狗の隠れ蓑からメタマテリアルまで (DISCOVER SCIENCE)
- 作者: 雨宮智宏
- 出版社/メーカー: ディスカヴァー・トゥエンティワン
- 発売日: 2014/06/26
- メディア: 新書
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物語内に出てくる透明化の初出は、ギリシア神話(B.C. 9C)までさかのぼる。被ると見えなくなる「ハデスの兜」である。日本では平安時代の『宝物集』(1177-81年)にでてくる「天狗の隠れ蓑」が似た機能をもっている。SFではウェルズの『透明人間』(1897年)が有名で、ここで科学的な用語による解説があらわれる。近年でも『ハリーポッター』や『攻殻機動隊』など透明化が現れる作品は多い。また、客前のエンタメという観点からは、死角と錯覚を利用したマジックも重要だ。
このように透明化というアイデアは古くから存在し、人々を惹きつけてきた。これが物語やエンターテイメントだからといって、現在の視点からはとるにたらないものではない。むしろ本質を含んでいると指摘する。ウェルズを取り上げた箇所では、
文中に出てくる"幾何学"と"屈折率"という概念は、現代の透明マント理論の根幹となっているものなのだ。
とあり、鏡をつかったマジックについては
これらのマジックには、透明マントのエッセンスともいうべき重要なポイントが含まれている。それは、隠したい部分に何もないよう錯覚させるため、後ろのカーテンをそこに再現している点だ。実際には鏡を用いて左右のカーテンを映すことで、その再現を行っているのだが、本書の主役である透明マントの概念もこれに極めて近い。つまり、何らかの現象を利用して、隠したい対象物の真後ろにある風景を再現してやればよいのである。
とある。
実用的な透明化の例として、ステルス戦闘機が挙げられている。ここでいう透明とは、目に見えないのではなく、レーダーに映らないという意味だ。上空の戦闘においてこの優位性は大きい。ステルス戦闘機の特徴といえば、その形状だ。平べったい多角形になっていることで、レーダーからの電磁波をそのまま反射せず、散乱させることで感知されない。
この本もフィクションからスタートする。まず人間の欲望を理解するところから始めようというわけだ。テクノロジーは時代によって変わるが、人間の欲望については普遍的で、現在にもそのまま当てはまる。こちらも初出はギリシア神話らしい(ギリシア神話すげえ)。そしてSFでは、ヴェルヌ『地軸変更計画』やヴォネガット『猫のゆりかご』など多数を挙げ、天気と気候の支配をめぐる波瀾万丈の歴史の現実に最も近いのはこのような悲喜劇だと指摘する。