2018年の上半期を振り返り、読んだ本からベスト10を選んでみた。フィクションとノンフィクションの2つに分けて、それぞれ5冊ずつ。
フィクション
樋口恭介『構造素子』
リチャード・パワーズ『舞踏会へ向かう三人の農夫』
クリストファー・プリースト『魔法』
ネタバレNGの小説。記憶を失ったカメラマンのもとに、かつての恋人を名乗る女性が現れ・・・とあらすじを書いてみても、大事なところに触れられないので、紹介が難しい。小説ならではの驚きの仕掛けが待っている、とだけ。読む人には、第4部までで投げ出すのはもったいないと言いたい。
- 作者: クリストファープリースト,Christopher Priest,古沢嘉通
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2005/01/01
- メディア: 文庫
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有栖川有栖『女王国の城』
江神シリーズの第4長編。宗教施設で起きた事件によって、推理小説研究会のメンバーが、内側と外側に分断されるクローズドサークルもの。内と外でそれぞれ物語は進行するが、行きづまったその先で視点が交差する瞬間、推理が一直線につながる場面は鮮やかで、絵的にも印象的だった。シリーズの例にもれず、ロジカルさの追求は見事。
トマス・M. ディッシュ『アジアの岸辺』
- 作者: トマス・M.ディッシュ,若島正,浅倉久志
- 出版社/メーカー: 国書刊行会
- 発売日: 2004/12/01
- メディア: 単行本
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ノンフィクション
新井紀子『AI vs 教科書が読めない子どもたち』
AIが発展していくとどんな影響があるのかを冷静に整理していく前半。AI脅威論が語られがちな昨今、貴重な視点がある。ポイントは、AIには意味が理解できないこと。では、人間はどうか?後半では、基礎的読解力のテストを開発し、中高生の読解力を分析したデータが示される。その結果は驚くべきもので、多くは教科書の記述を正確に読み取れない、という。いろんな問題の原因にしてしまいそうなほど、根源的な指摘。
マーカス・デュ・ソートイ『知の果てへの旅』
人はどこまでのことを知ることができるのか、という問いの答えを求めて、身近な体験から最先端まで、数学者が丁寧に案内してくれる。テーマは確率、カオス、素粒子、宇宙などなど様々で、一人の著者がこれだけのものをつなげて書けるのは素晴らしい。大きな視点をもつために、『サピエンス全史』と並べて薦めたい。
スローマン&ファーンバック『知ってるつもり――無知の科学』
認知科学の本では、人が合理的な判断をできないとよく言われてる。そこにコミュニティの問題をいれたのが本書の特色か。コミュニティは、知識という点で個人を助けるが、誤った考えも植え付ける。知識は個人を超えてコミュニティに根差しているから、自分の知識を実際より多いと錯覚してしまい、判断がくるう。錯覚は仕方ないとしても、その錯覚を自覚して罠を避けるにはどうすればよいのか、という本。
- 作者: スティーブンスローマン,フィリップファーンバック,橘玲,土方奈美
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2018/04/04
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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前野ウルド浩太郎『バッタを倒しにアフリカへ』
昆虫学者の活動記録。バッタの生態を調べるためにモーリタニアのフィールドワークへ。実験室とのギャップを感じながらも、試行錯誤し発見を積み重ねていくのが実に面白い。ユーモラスな文体がどんどん読ませる。研究の場所はどこにあるのか、研究者の仕事とはなにかを考える上でも、とても示唆的だった。
下條信輔『サブリミナル・マインド』
人は自分で考えているほど、自分の心の動きをわかっていない」ことを神経科学から明らかにし、自由意志に疑問を投げかける。『中動態の世界』の科学版みたいな議論の流れ。自分の心についての推論と他者の心についての推論はほぼ同じ過程である、とか、自覚できないレベルの知覚でも行動に影響を及ぼす、とか、すごいことが書かれてる。
去年書いた記事はこちら。