ポール・J・スタインハート『「第二の不可能」を追え!』(訳/斉藤隆央、みすず書房)を読んだ。理論物理学者である著者が、ありえないといわれていた物質を30年にわたって探求する過程を描いたノンフィクション。科学の良さがつまった好著だった。
続きを読む私は早くから、何かの考えが「不可能」と退けられるときにはいつも、じっくり考えるようになっていた。たいていの場合、科学者は、エネルギー保存則を破るとか、永久機関を作るといった、まるっきり論外のことを指して不可能と言う。この種の考えを追い求めるのは意味がない。だがときには、何かの考えが「不可能」と判断されながら、その前提が、それまで考慮されたことのない条件のもとでは成り立たないこともある。私はそれを、「第二の不可能」と呼んでいる。
根底にある前提が明らかにされ、長らく見過ごされてきた抜け道が見つかったら、第二の不可能は、大きな転機となる発見をする貴重な機会、ひょっとしたら一生に一度かもしれない機会を科学者にもたらす、宝の山となりうる。