小川哲の短編「最後の不良」を読んだ。『年刊SF傑作選 プロジェクト:シャーロック』(創元SF文庫)収録。初出は、雑誌〈Pen〉のSF特集。
どんな小説か
物語の舞台は、MLS(ミニマル・ライフスタイル)社が起こしたムーブメントによって流行がなくなった世界。価値観の均一化が進んでいた。カルチャー誌〈Eraser〉編集者の桃山は雑誌の休刊をきっかけに辞表を提出すると、暴走族のバイクで走りだす。向かうのはMLS社。そこでは流行を取り戻すべく、抗議活動が行われている。意を決して来たものの、抗議にも違和感を覚えた桃山は、そのかたわらに元同僚を見つける。その後を追いながら社内に忍び込むと、そこは思わぬ光景が・・・という内容。流行という不思議なものの本質をとらえつつ、とても推進力のある小説だった。
書き出しはこんな風
第二次世界大戦が終わり、日本ではヒッピーが流行し、DCブランドが流行し、コギャルが流行し、パンツの裾が細くなったり太くなったりした。女子の髪やスカートの丈が短くなったり長くなったりし、化粧が厚くなったり薄くなったりし、草食系男子や五郎丸が流行し、ノームコアと電気自動車が流行した。そして最後に「虚無」が流行した。