いま、紙の本について~『紙つなげ!彼らが本の紙を造っている』、『文体の科学』

 電子書籍が登場してからというもの、ずっと考えていることがある。電子書籍だとうまく読めない、紙とは何かが違う。その何かとはいったいなんなのか、いつも名指せぬままだ。なぜか紙の方がしっくりくる。慣れの問題だろうか、それとも。短い記事ならスクリーンでも読めるが、数十ページはきつい。

 

どうやら記憶しやすさと関係があるのではないか、というヒントを見つけた2冊の本について書いてみたい。

まずは、佐々涼子『紙つなげ!彼らが紙の本を造っている』(早川書房)。東日本大震災で被災した日本製紙石巻工場が復興する過程を描いたノンフィクションである。

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ヒトと他とを分かつもの~『文化進化論』と『サピエンス全史』

アレックス・メスーディ『文化進化論』(NTT出版)を読んでいる。進化論という視点から、細分化された学問に統合的な見取り図をもたらすことを目指す。

文化進化論:ダーウィン進化論は文化を説明できるか

文化進化論:ダーウィン進化論は文化を説明できるか

 

 第1章では、文化の定義と重要性を確認する。定義を引用する。

文化とは、模倣、教育、言語といった社会的な伝達機構を介して他者から習得する情報である 

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パーソナル・コンピュータ~『アラン・ケイ』と「ぼくの、マシン」

パーソナル・コンピュータの歴史をたどると、起源にアラン・ケイという人物がいる。コンピュータを研究者や専門家だけのものではなく、一般の利用へ普及するための理念を掲げた。それがDynabookと呼ばれる。具体的にも、マウスやウィンドウなど今では当たり前になっているユーザーインターフェースを研究した。

アラン・ケイ (Ascii books)

アラン・ケイ (Ascii books)

 

 逆に言えば、当時のコンピュータはパーソナルではなかった。ひとつのマシンを複数人で共有するタイムシェアリングというシステムで運用していた。そもそもコンピュータは、一般の人にとって用途が明確でなく、マシンのサイズも大きい。その時代にパーソナル・コンピュータを提唱したことに先見の明がある。その理念はアップル社に流れ込み、パーソナル・コンピュータは製品となり普及していくことになる。Dynabookのビジョンは、まだまだ有効であるように思える。

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経済と集団思考 ~ 『人工知能と経済の未来』、『賢い組織は「みんな」で決める』

人工知能と経済の未来』を読んでいて、『賢い組織は「みんな」で決める』を連想したという話。

 話題の本『人工知能と経済の未来』を読んでいた。人工知能の発達を解説し、未来の経済の在り方を示している。AIが労働市場に広がったときの社会保障としてBI(ベーシックインカム)を提案する。明快なビジョンが示されていて、とても面白い。

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はじめに

本を読んでいると、既視感に見舞われることがある。前にどこかで同じようなものを・・というような。記憶を頼りに本棚から探してみると、確かに似ている。でも、全く同じではない。比べてみるとより細かいところが見えてきて、それがおもしろい。ときにはあまりの勘違いぶりに、何と勘違いしたのかにむしろ興味がわいてきたり笑。
 
そんなつながったという感覚、連想から考えたことについて書いていきます。その本の本題とは関係ないかもしれません。それでも思いがけないつながり、意外な引用やオマージュにわくわくしてしまうのです。結果的に、全然違う話でしたということもありそうですが、それはそれで。