〈沢木耕太郎ノンフィクション〉第Ⅶ巻は社会/長篇。1960年をテーマにした2作を収録している。どちらも傑作。
- 「危機の宰相」
- 「テロルの決算」
「危機の宰相」
初出:「文藝春秋」1977年7月号
1960年、岸のあとに首相になった池田勇人が「所得倍増」を掲げる。この有名なキャッチコピーはどのようにして生まれ、実行されたのか。そのルーツをたどりながら、1960年代初頭、安保の危機から政・財・官の「蜜月」へと転じた日本政治の動きを描き出す。
1960年代は、経済の発展がそのまま幸福につながると信じることができた、とある。書かれた1970年代当時から見て、その点では良い時代とされる。みなが同じ目標を共有できた時代。ただ作中にもあるように、公害などの問題がまだ広く認識されていないという側面は意識しておかなくてはいけない。
池田政権は1960年から1964年まで続いた。それは安保から東京オリンピックの終わりまでにあたる。日本の戦後の復興期が終わり、そのまま成長していくか停滞するかの分岐点で、国家の構想が問われていた。そうした文脈のなかで生まれたのが「所得倍増」のアイデアで、重要な役割を果たしたのは3人の元大蔵官僚だった。
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