「近ごろよく考えるんです。自分の父親がどうやって自分の夢に向き合っていたのか。でも、想像できないんです。ぼくにとって戦争は本当に遠くて、ぼんやりとしているから」(p.231)
呉明益の長編デビュー作『眠りの航路』(訳・倉本知明、白水社エクス・リブリス)を読んだ。のちに書かれた『歩道橋の魔術師』や『自転車泥棒』とも重なるところがあってひきこまれ、すぐに2周目をすることに。
数十年に一度だけ一斉に花を咲かせるというホウタクヤダケが開花した日、「ぼく」は友人とその花を見に行く。その日から「ぼく」は睡眠に異常をきたす。入眠と起床の時間が3時間ずつ後ろずれていき、生活のリズムがくるってしまう。そして夢を見なくなる。
並行して、失踪した父・三郎の物語が書かれている。三郎の少年時代は第二次世界大戦と重なる。自ら志願して台湾から日本へわたり、少年工として戦闘機の生産にたずさわる。台湾から船で日本に向かう場面から、断片的に配置されている。