冷凍庫が大きな話題になったら、悪いニュースと考えてほぼ間違いない。何年か前、コンビニの店員が中に入った写真をSNSにあげて炎上したことがあった。今年に入ってからはコロナワクチンの低温保管でトラブルがいくつもあった。スエズ運河の事故で足止めになってしまったLNG運搬船も、ある意味で冷凍庫の一種だ。
なぜ悪いニュースばかりかといえば、冷凍庫がインフラだからだろう。電気、ガス、水道などとともに生活の裏側で重要な役割を果たしている。あって当たり前のものになってしまうと、意識にのぼるのはダメになったときくらいだ。
冷蔵・冷凍をインフラという視点で見てみる。たとえば食品を新鮮に保つために、冷蔵庫は産地と家庭を結んでいる。農場や工場から低温で運ばれてきた食品は、スーパーの冷蔵庫に入って、家庭の冷蔵庫にやってくる。町のどこか、家のどこかが常に冷えているおかげで、いまの生活が成り立っている。
こんな暮らしができるようになったのは、歴史上で見るとごく最近のことだ。ものを冷やす技術は、熱する技術とくらべ、ずいぶんと遅くに登場した。トム・ジャクソン『冷蔵と人間の歴史―古代ペルシアの地下水路から、物流革命、エアコン、人体冷凍保存まで』(訳・片岡夏実、築地書館)は、冷却技術の発展がどのように世界を変えたのかを描き出す。
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