今年の7月、藤井聡太七段は早くも2回目のタイトル挑戦をしていた。相手は、前年に最年長で初タイトルを獲得した木村王位。最年少と最年長、対照的な組み合わせになった。
樋口薫『受け師の道 百折不撓の棋士・木村一基』は、木村の修業時代からタイトル獲得までの半生を描く。百折不撓(ひゃくせつふとう)とは、木村の座右の銘で、「何度失敗してもくじけないこと」という意味だ。その言葉に現れているように、タイトルへの道のりは険しいものだった。
『統計の歴史』、『急に具合が悪くなる』
今年ほど、統計を意識させられる年もない。感染者数、陽性率、重症率、再生産数などの数字が毎日更新される。都道府県ごとのマップが作られて、時系列のグラフが作られる。初期に起こった、検査数と偽陽性をめぐる議論も、直観ではとらえにくい統計の話だった。
ここ最近、ずっと統計の存在感が増している。個人がスマホを手にし、ネットワークにつながり、生み出されたデータが分析される。計算能力の増大もともなって、統計データがさまざまな意思決定に関与している。
全盛期を迎えたといってもいい統計は、どんな歴史をもつのか。オリヴィエ・レイ『統計の歴史』では、主にヨーロッパで統計が定着していく様子をたどる。17~18世紀に基礎がつくられ、19世紀前半に急速に広まることになる。
「その2人の関係」としか、言いようがない
遠くで手をふる小さなおとうさんは、他人みたいだった。
私は、あそこに立っている、いつまでもばかみたいに手をふり続けている男の人が大好きだと思った。
2020年上半期に読んだ本ベスト10
ノンフィクション
東畑開人『居るのはつらいよ』(医学書院)
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『都市は人類最高の発明である』、『アナログの逆襲』
最近は自宅で過ごす時間が多い。わりと普段からインドアではあるが、よく行っていた本屋が閉まっていたりすると途端に不自由になった気がする。いつも本屋に助けられているなぁと思う。
こういうときは本棚をながめて、気になった本の再読をはじめる。自然と読み方も変わってくる。前に読んだときに感想を残していればもっとおもしろかったのに、と悔やむなど。というわけで、2冊ほど書いておきたい。
エドワード・グレイザー『都市は人類最高の発明である』
都市というのは、人と企業の間に物理的な距離がないということだ。近接性、密度、身近さだ。都市は人々が一緒に働き遊べるようにするし、その成功は物理的なつながりの需要に依存する。(p.8)
この本の主張はタイトルが示すとおりで、都市のすばらしさを書いている。
続きを読む将棋ノンフィクションを読む――『純粋なるもの』、『透明の棋士』
将棋を見るのが好きなので、自然と関連する本に手がのびる。読書が趣味だと、別の趣味とすぐリンクするのがいい。というわけで、将棋のノンフィクションを立て続けに2冊読んだ。とても良い体験だったのでそのことを書いてみる。
本を読んでいると、棋士たちの魅力が随所にみつかる。将棋というゲームを楽しみつつ、棋士を追いかけるのもおもしろいかもしれない。将棋のルールを知らなくても楽しめると思う。
島朗『純粋なるもの 羽生世代の青春』(河出書房新社)
著者は初代竜王となった現役の棋士。羽生善治を代表とする強豪ぞろいの年齢層、いわゆる羽生世代より少し上の世代にあたる。この本は伝記と自伝がミックスされたような内容。
メインとなるのは、将棋界を席巻していく羽生世代の棋士たちの日々。著者の落ち着いた筆致のなかに新しい才能への驚きと尊敬がうかがえ、いまここにしかない美しいものを書き留めておこうという意志を感じる。
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