MCバトルと漫才

MCバトルのテレビ番組「フリースタイルダンジョン」をずっと見ている。始まってからもう2年半になる。MCバトルとは、即興のラップバトルのこと。とても中毒性が高く、毎週楽しみにしている番組だ。
 
いまとなっては普通に見てしまっているが、最初に見た時の衝撃はすごかった。すごいとしか言えない。すごいんだけど、いろいろ分からない。どんな風に頭を使えば韻を踏みながらこんなスピードで言葉を繰り出せるのか。そもそも、なんでこんなことが行われているのか。まさに異文化に出会ったという感じだった。
 
でも、その場には確かに共有されている価値観があり、その文化を語るための言葉もあった。見ているうちに少しずつ分かるようになった。
 

MCバトル史から読み解く 日本語ラップ入門

 『MCバトル史から読み解く 日本語ラップ入門』という本を読んだ。著者はラッパーのDARTHREIDER。タイトルには日本語ラップ入門とあるが、MCバトルの歴史と変遷がメインという印象だった。MCバトルは日本語ラップサブジャンルで、楽曲とは別のシーンを作っている。著者としては、バトルシーンの拡大を実感しつつも、楽曲シーンとの乖離を懸念している。

 
興味深かったのは、MCバトルという一種の文化がどのようにして始まり、変化してきたかということだ。突発的に発生したフリースタイルのバトルがしだいに広まり、ルールがつくられ、やがて大会が開催される。そこでは勝敗がつけられるが、客観的な数値化はできない。では、どんな基準で審査するのか。試行錯誤が繰り返される。
 
審査をめぐるその過程で、MCバトルについていろんな言葉や語り方が生まれる。即興性、韻の固さ、フロウ、ビート解釈、アンサー、パンチラインなど。数値化できないものを評価するときには、言葉が必要になるからだ。
 
初期のころは、即興性と韻のわかりやすさが評価された。しかし、MCのスキルの向上とともに観客の耳が鍛えられていくと、評価はもっと複雑なものになる。このように観客や審査員とプレイヤーは、一体となってシーンを作っていく。楽曲のシーンからは切り離されて、競技としてのバトルに特化したMCが登場する流れも興味深い。
 
 

東京ポッド許可局 ?文系芸人が行間を、裏を、未来を読む?

思い出したのは、東京ポッド許可局・手数論。東京ポッド許可局とは、マキタスポーツプチ鹿島サンキュータツオによるラジオ番組・トークユニットのこと(当初はPodcast番組)。毎回1つのテーマについて「〇〇論」というタイトルで配信される。手数論というのは、漫才のスタイルの変化について手数(=笑いの数)から考察した回(2008年配信)で、書籍にも収録されている。
 
漫才ブームからダウンタウンM1グランプリまでの流れを手数という観点で整理する。すると、手数は増加の一途をたどることがわかる。その過程で漫才は、フリを短くし、1つのボケでたくさん笑いを取る形へと進化していく。平均して1回の笑いに必要な時間は、ツービートで20秒、ダウンタウンで14秒、M1では10秒以下になる。M1 2008決勝でのNON STYLEにいたっては約4.9秒になる!
 
漫才の中でどんどん手数が増えていく中、ここでも競技化の弊害が指摘されている。いわく、マニア向けの笑いになっていて、コンテストの優勝と売れることが直結しないという状況が起きている。先鋭化された競技は、一般受けがよくない。今後はネタ番組が減っていくとも言っていて、実際その通りになったと思う。
 
では、その先はどうなるか。もはや手数は限界に来ていて、質を評価する方向へいくのでは、と。手数から有効打へ。*1 その後のM1では、スリムクラブなどが代表例だろうか。
 
MCバトルにも同じことが言えるかもしれない。韻の数から質へ。実際、フリースタイルダンジョンの2代目モンスターである呂布カルマは「押韻型ではないパンチラインの名手」と本の中で紹介されている。同じく2代目モンスター・FORKはバトルの中で韻の質を強調している。

RHYME至上主義だよ 要は使い方

量で誤魔化さねえ その味が美味いかだ

テメェの腹を満たすだけの為に

ドカ食いしてる小僧と一緒にすんじゃねぇ

(vs SURRY, FRD 2017/9/19)

韻を踏みすぎるのも考えもんだな

本当の価値が分かんねぇもんだ

俺の中では足し算は終わって引き算は始まっている

ビギナーには到底理解できねぇ価値観だ

(vs MC KUREI, FRD 2017/10/3)

 

ある文化が競技化していく中で、量を突き詰めたのちに量から質へ転換する。でも、それはある一面でしかない。実際には、もっと複雑な挑戦と原点回帰があり、同時に、そのような状況に対する新しい言葉や語り口があるはず。それをセットで見ていけば、もっと楽しめる。 

 

MCバトル史から読み解く 日本語ラップ入門

MCバトル史から読み解く 日本語ラップ入門

 

  

東京ポッド許可局 ?文系芸人が行間を、裏を、未来を読む?

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*1:MCバトルと漫才の両方で、ボクシングの例えが使われるのおもしろい。