『月をマーケティングする』、『デジタル・ミニマリスト』

アポロ11号とともに人類がはじめて月面に降り立ってから今年で50年になる。いまでは経営者が宇宙事業に乗り出し、宇宙ステーションへの輸送を手がけている。この間に機体制御、コストダウン、通信などの技術は蓄積されてきた。次は火星へ、といった発言もと…

『「罪と罰」を読まない』、『読んでいない本について堂々と語る方法』 

名作と呼ばれる本は多い。そのたぐいのブックリストを見るたびに、どれだけ読んでいないかを知ることになる。読んだらきっと面白いんだろうなー、でも多すぎて読み切れんなー、とつねづね思っている。 ドストエフスキー『罪と罰』といえば、名作リストの定番…

中井英夫『虚無への供物』、東浩紀「悪の愚かさについて、あるいは収容所と団地の問題」

日本三大奇書のひとつ、中井英夫の長編『虚無への供物』を読んだのはずいぶんと前のことになる。氷沼家におこるいくつもの不審な死とその謎とき。ペダンティックな推理合戦や意外な真相など魅力は多いが、ぼくにとってもっとも印象的だったのは、ある人物が…

『インフォメーション 情報技術の人類史』、『見知らぬものと出会う ファースト・コンタクトの相互行為論』

20世紀中葉に「情報」には科学的な定義があたえられた。それ以降、情報はいたるところに見いだされ、情報技術の発展しつづけてきた。ジェイムズ・グリック『インフォメーション 情報技術の人類史』(訳/楡井浩一 新潮社)は、情報という軸で分野横断を試みる…

本を読む物語~「デス博士の島その他の物語」、『リズと青い鳥』

登場人物が本を読む話について書いてみた。ネタバレありなので注意。 ジーン・ウルフ「デス博士の島その他の物語」。書きだしはこんな風。 落ち葉こそどこにもないけれど、冬は陸だけでなく海にもやってくる。色あせてゆく空のもと、明るい鋼青色だった昨日…

2019年上半期に読んだ本ベスト10

・フィクション リチャード・パワーズ『われらが歌う時』(訳/高吉一郎 新潮社) ユダヤ人の父と黒人の母、3人の子供。人種差別のなかで生きるアメリカの家族の物語。家族それぞれのパートがつぎはぎで語られ、合流してくる。その間の世界史的な話をあくま…

コピーの功罪~『パクリ経済』、『誰が音楽をタダにした?』

パクリやコピーという言葉には悪いイメージがつきまとう。楽して人の成果を横取りしている、と。K・ラウスティアラ&C・スプリグマン『パクリ経済――コピーはイノベーションを刺激する』(みすず書房)は、コピーと創造性の関係について常識をくつがえすよう…

『書物の破壊の世界史』、『華氏451度』、『収容所のプルースト』

フェルナンド・バエス『書物の破壊の世界史 シュメールの粘土板からデジタル時代まで』を読んだ。古今東西、書物が破壊されてきた歴史をたどる。注や参考文献などを含めると700ページを超える大著。 書物が破壊される原因はいくつかあるが、人為的なものが目…

贈与と交換 ~『うしろめたさの人類学』、『たまこまーけっと』

松村圭一郎『うしろめたさの人類学』(ミシマ社)を読んだ。この本では、人と人のつながりや関係性の構築について考察している。ものやサービスのやりとり、コミュニケーションに注目していて、そのなかで触れている贈与と交換の比較がおもしろかった。 贈与…

サイボーグとしての人間~『生まれながらのサイボーグ』、『虐殺器官』

コンピュータは身体に接近している。物理的な位置として。コンピュータ誕生当時は専用の部屋が必要なサイズだったけれど、小型化が進み、いまでは持ち運べる。種類も増えて、いわゆるウェアラブルデバイスはメガネや時計の形をとって身体にくっついている。…

『この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた』、『ゼロからトースターをつくってみた結果』

僕らの知っていた世界は終わりを遂げた。 格別に強毒型のインフルエンザがついに異種間の障壁を越えて人間の宿主に取りつくことに成功したか、あるいは生物テロ行為で意図的に放出されたのかもしれない。都市の人口密度が高く、大陸をまたぐ空の旅が盛んな現…

2018年下半期に読んだ本ベスト10

ノンフィクション5冊、フィクション5冊で選びました。 ノンフィクション アンドリュー”バニー”ファン『ハードウェア・ハッカー 新しいモノをつくる破壊と創造の冒険』(訳/高須正和 監訳/山形浩生 技術評論社) 電子デバイスを使う機会はどんどん増えてい…

エコーチャンバーの外へ~『#リパブリック』、『江戸の読書会』

最近、「有名」がわからない。自分が有名だと思ったものでも、周りは知らないことが普通にあり、同じくらいその逆もある。SNS以降だろうか、きっと違うクラスターにいるってことなんだろう。同じ本を読んでる人にもめったに会わない。だからこそ、出会ったと…

ユヴァル・ノア・ハラリ『ホモ・デウス——テクノロジーとサピエンスの未来』& 合わせて読みたい本

なぜ人類は地球を支配するにいたったのか。歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリいわく、認知革命によって宗教、貨幣、国家などの虚構を共有し、柔軟に協力できるようになったからだ。そんな虚構を軸にした人類史、それが『サピエンス全史』だった。では、これ…

小川哲「最後の不良」、ヒース&ポター『反逆の神話』

小川哲の短編「最後の不良」を読んだ。『年刊SF傑作選 プロジェクト:シャーロック』(創元SF文庫)収録。初出は、雑誌〈Pen〉のSF特集。 どんな小説か 物語の舞台は、MLS(ミニマル・ライフスタイル)社が起こしたムーブメントによって流行がなくなった世界…

伊藤亜紗『どもる体』

はじめに しゃべることがあまり得意ではない僕は、『どもる体』の序章を読んでいて、ハッとした。しゃべるときの体や各器官の動きについて語られていて、しゃべること=言葉選びという等式をつくってしまっていたことに気づいたからだ。当たり前すぎて見落と…

2018年上半期に読んだ本ベスト10

2018年の上半期を振り返り、読んだ本からベスト10を選んでみた。フィクションとノンフィクションの2つに分けて、それぞれ5冊ずつ。 フィクション 樋口恭介『構造素子』 第5回ハヤカワSFコンテスト大賞のデビュー作。作家と物語、親と子、人類と人工知能の…

「知らないこと」と向き合う~『知ってるつもり 無知の科学』、『知の果てへの旅』

どんどん便利になっていく世の中、自動化が進み、いろんなことが簡単にできる。便利なものに囲まれる生活の中で、身近なもののしくみをどれだけ知っているだろうか、と考えてみる。たとえば、水洗トイレで水が流れる原理は?、と。 トイレは毎日のように使っ…

MCバトルと漫才

MCバトルのテレビ番組「フリースタイルダンジョン」をずっと見ている。始まってからもう2年半になる。MCバトルとは、即興のラップバトルのこと。とても中毒性が高く、毎週楽しみにしている番組だ。 いまとなっては普通に見てしまっているが、最初に見た時の…

新井紀子『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』

毎日のようにAIがニュースになる。身近なデバイスへの導入、技術のブレイクスルー、法律の整備などなど、その観点もさまざまである。その中でも、AIによって人間の仕事が奪われるのではないかという懸念をよく目にする。関連書も多い中で、他とは違う視点を…

『バッタを倒しにアフリカへ』、『フンボルトの冒険』

研究者のノンフィクションを2冊読んだ。どちらもフィールドワークという共通点があるが、ひとつは現代、もうひとつは19世紀が舞台となる。冒険や自然との格闘、時代ごとの研究の背景など、並べて考えてみるのもおもしろい。 前野ウルド浩太郎『バッタを倒…

『トラクターの世界史』と『団地団』

高校までの歴史の授業が苦手だった。なんとなく、つかみづらい。いまから振り返ると、その原因は授業の内容が政治史を重視で、その政治にあまり興味がもてなかったということが大きい。 歴史は、政治以外のさまざまなものからも語ることができる。たとえば、…

2017年下半期に読んだ本ベスト10

2017年の下半期を振り返って、良かった本を選んでみました。フィクションから5冊、ノンフィクションから5冊ということで。 フィクション 小川哲『ゲームの王国』 今年、一番好奇心を掻き立てられた小説。カンボジア圧政下で、少年と少女は世界を変えるために…

ひみつ道具の物語~『透明マントを求めて』、『気象を操作したいと願った人間の歴史』

科学技術の発展は目覚ましい。少し前までは想像の世界だったものが現実になる時代。想像されたものはいつか現実する、そんな気さえする。科学技術の歴史は、想像力と隣り合わせで進んできた。想像力の世界を覗こうとするとき、フィクションはいい材料を提供…

山田胡瓜『バイナリ畑でつかまえて』

ストリートビューに映り込む淡い記憶。レコメンドエンジンがほのめかす人の情。古い携帯にしみこんだ後悔。果ては、故人の人格が染み付いた人工知能とのすったもんだまで……。情報の海に人知れず降り積もる、どこかのだれかの物語を22編収録。 元IT系記者が描…

〈白いディストピア〉が待っている?~『すばらしい新世界』、『ハーモニー』、『ザ・サークル』~

ディストピア小説というジャンルがある。ディストピアとは、理想郷やユートピアの真逆の意味だ。その中でも、ユートピアを本気で目指した結果、ある人にとってはディストピアになるというタイプの系譜がある。あるテクノロジーや価値観が徹底され、それに疑…

小川哲『ゲームの王国』

ある作家の本を初めて読んで、この作品は好きかもしれないと思えたら、そのあとはいつも決まってこうだ。作者のことを調べて、ベテラン作家ならどこから読もうかと悩み、新人なら全部読もうと心に決める。興味はどんどん広がる。 自分にとって、小川哲『ゲー…

『ピクサー流 創造するちから』と『一般意志2.0』

『ピクサー流 創造するちから』は、アニメーションスタジオのトップをはしるピクサーの歴史とアニメーション制作の裏側を書いた本である。その歴史はそのままアニメーション技術の足跡になっている。また、経営に参加したスティーブ・ジョブズの知られざる一…

マイケル・ルイス『かくて行動経済学は生まれり』

『マネー・ボール』を書いたマイケル・ルイスの新刊がでた。それが行動経済学の源流となった二人の心理学者の物語となれば読んでみたい。と思いつつ、なんでそのテーマ?とも思った。なぜなら、マイケル・ルイスの主戦場は、『世紀の空売り』や『フラッシュ…

2017年上半期に読んだ本ベスト10

上半期も終わりということで、振り返って、良かった本を10冊選んでみました。 フィクションから5冊、フィクション以外から5冊で順不同です。 G.K.チェスタトン『木曜の男』 初チェスタトン。いちばん衝撃を受けた。スパイもの、ミステリ、幻想などジャン…