2017年下半期に読んだ本ベスト10

2017年の下半期を振り返って、良かった本を選んでみました。フィクションから5冊、ノンフィクションから5冊ということで。 

フィクション 

小川哲『ゲームの王国』

今年、一番好奇心を掻き立てられた小説。カンボジア圧政下で、少年と少女は世界を変えるために壮大な物語が動き出す。一方は脳波の研究、もう一方は政治家へ。世界のルールはどのように設定されるのかを問う。ジャンルを横断した知見が投入されている。kinob5.hatenablog.com

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ひみつ道具の物語~『透明マントを求めて』、『気象を操作したいと願った人間の歴史』

科学技術の発展は目覚ましい。少し前までは想像の世界だったものが現実になる時代。想像されたものはいつか現実する、そんな気さえする。科学技術の歴史は、想像力と隣り合わせで進んできた。想像力の世界を覗こうとするとき、フィクションはいい材料を提供してくれる。ドラえもんひみつ道具が実現された、なんていうニュースをたびたび目にしたりする。
 
『透明マントを求めて』は、タイトル通り、透明マントをつくる試みの歴史について書かれている。サブタイトルには、天狗の隠れ蓑からメタマテリアルまで、とある。透明になるという考えは古くから存在し、はじめはフィクションに現れる。それが時代を経て、メタマテリアルという形で実際に作られようとしている。

山田胡瓜『バイナリ畑でつかまえて』

バイナリ畑でつかまえて

ストリートビューに映り込む淡い記憶。レコメンドエンジンがほのめかす人の情。古い携帯にしみこんだ後悔。果ては、故人の人格が染み付いた人工知能とのすったもんだまで……。情報の海に人知れず降り積もる、どこかのだれかの物語を22編収録。 

元IT系記者が描いた掌編漫画集。2013年から2015年にかけてウェブ上で連載された。舞台設定は現代から近未来。現在の延長線上に進んでいって、なんとか想像が及ぶ範囲というあたり。どの作品もテクノロジーウェブサービスを題材にした人間ドラマで、2~3ページと短いページに凝縮されている。Amazon, Dropboxなど現在進行形のサービスもでてくる。

言葉での説明は抑え気味で、絵から読み取るのが醍醐味。一見しただけではよくわからなくて、注意深く見ていくと、あっと驚くものもあった。テクノロジーが生みだす思わぬ効果がおもしろい。笑いあり、涙あり。

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〈白いディストピア〉が待っている?~『すばらしい新世界』、『ハーモニー』、『ザ・サークル』~

ディストピア小説というジャンルがある。ディストピアとは、理想郷やユートピアの真逆の意味だ。

その中でも、ユートピアを本気で目指した結果、ある人にとってはディストピアになるというタイプの系譜がある。あるテクノロジーや価値観が徹底され、それに疑問をもたない幸福な多数派に対して、違和感を覚える少数派が抵抗するという物語になる。

このような設定を、ぼくは勝手に〈白いディストピア〉と呼んでいる。理由は表紙が白いから。こんな風に。 

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とにかく白い。他の色は黒のみ。そして、すべて早川書房! (この前のノーベル賞祭りはすごかった。関係ないけど)

小川哲『ゲームの王国』

ある作家の本を初めて読んで、この作品は好きかもしれないと思えたら、そのあとはいつも決まってこうだ。作者のことを調べて、ベテラン作家ならどこから読もうかと悩み、新人なら全部読もうと心に決める。興味はどんどん広がる。
 
自分にとって、小川哲『ゲームの王国』はまさにそういう本だった。
ゲームの王国 上

ゲームの王国 上

 

『ピクサー流 創造するちから』と『一般意志2.0』

ピクサー流 創造するちから』は、アニメーションスタジオのトップをはしるピクサーの歴史とアニメーション制作の裏側を書いた本である。その歴史はそのままアニメーション技術の足跡になっている。また、経営に参加したスティーブ・ジョブズの知られざる一面を知ることもできる。

ピクサー流 創造するちから――小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法

ピクサー流 創造するちから――小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法

 

いわゆるクリエイティブ産業でもっとも重要なものは、アイデアである。アイデアは天才によってかたちになるのか。いや、そうではない。アイデアを生み出す仕組みやチームづくりが重要だというのが本書の主張。とりわけ興味深いのは、ストーリーを決める会議のやり方である。

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