山田胡瓜『バイナリ畑でつかまえて』

バイナリ畑でつかまえて

ストリートビューに映り込む淡い記憶。レコメンドエンジンがほのめかす人の情。古い携帯にしみこんだ後悔。果ては、故人の人格が染み付いた人工知能とのすったもんだまで……。情報の海に人知れず降り積もる、どこかのだれかの物語を22編収録。 

元IT系記者が描いた掌編漫画集。2013年から2015年にかけてウェブ上で連載された。舞台設定は現代から近未来。現在の延長線上に進んでいって、なんとか想像が及ぶ範囲というあたり。どの作品もテクノロジーウェブサービスを題材にした人間ドラマで、2~3ページと短いページに凝縮されている。Amazon, Dropboxなど現在進行形のサービスもでてくる。

言葉での説明は抑え気味で、絵から読み取るのが醍醐味。一見しただけではよくわからなくて、注意深く見ていくと、あっと驚くものもあった。テクノロジーが生みだす思わぬ効果がおもしろい。笑いあり、涙あり。

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〈白いディストピア〉が待っている?~『すばらしい新世界』、『ハーモニー』、『ザ・サークル』~

ディストピア小説というジャンルがある。ディストピアとは、理想郷やユートピアの真逆の意味だ。

その中でも、ユートピアを本気で目指した結果、ある人にとってはディストピアになるというタイプの系譜がある。あるテクノロジーや価値観が徹底され、それに疑問をもたない幸福な多数派に対して、違和感を覚える少数派が抵抗するという物語になる。

このような設定を、ぼくは勝手に〈白いディストピア〉と呼んでいる。理由は表紙が白いから。こんな風に。 

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とにかく白い。他の色は黒のみ。そして、すべて早川書房! (この前のノーベル賞祭りはすごかった。関係ないけど)

小川哲『ゲームの王国』

ある作家の本を初めて読んで、この作品は好きかもしれないと思えたら、そのあとはいつも決まってこうだ。作者のことを調べて、ベテラン作家ならどこから読もうかと悩み、新人なら全部読もうと心に決める。興味はどんどん広がる。
 
自分にとって、小川哲『ゲームの王国』はまさにそういう本だった。

『ピクサー流 創造するちから』と『一般意志2.0』

ピクサー流 創造するちから』は、アニメーションスタジオのトップをはしるピクサーの歴史とアニメーション制作の裏側を書いた本である。その歴史はそのままアニメーション技術の足跡になっている。また、経営に参加したスティーブ・ジョブズの知られざる一面を知ることもできる。

ピクサー流 創造するちから――小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法

ピクサー流 創造するちから――小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法

 

いわゆるクリエイティブ産業でもっとも重要なものは、アイデアである。アイデアは天才によってかたちになるのか。いや、そうではない。アイデアを生み出す仕組みやチームづくりが重要だというのが本書の主張。とりわけ興味深いのは、ストーリーを決める会議のやり方である。

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マイケル・ルイス『かくて行動経済学は生まれり』

マネー・ボール』を書いたマイケル・ルイスの新刊がでた。それが行動経済学の源流となった二人の心理学者の物語となれば読んでみたい。と思いつつ、なんでそのテーマ?とも思った。なぜなら、マイケル・ルイスの主戦場は、『世紀の空売り』や『フラッシュ・ボーイズ』といった金融市場のノンフィクションというイメージがあったからだ。

かくて行動経済学は生まれり

かくて行動経済学は生まれり

 

その答えは序章にある。はじまりは『マネー・ボール』に寄せられた書評(*1)だった。『マネー・ボール』のストーリーは、メジャーリーグで採用されていた戦略の不合理性をデータによって塗り替えていくというものだった。そのような不合理性は二人の心理学者によってすでに研究されているというのが、書評の指摘だった。二人の心理学者というのは、ほかでもなく本書の主人公エイモス・トヴェルスキーとダニエル・カーネマンである。

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2017年上半期に読んだ本ベスト10

上半期も終わりということで、振り返って、良かった本を10冊選んでみました。

フィクションから5冊、フィクション以外から5冊で順不同です。

G.K.チェスタトン『木曜の男』

 初チェスタトン。いちばん衝撃を受けた。スパイもの、ミステリ、幻想などジャンルを横断する面白さ。

木曜の男 (創元推理文庫 101-6)

木曜の男 (創元推理文庫 101-6)

 

 

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